かいじゅうは、山の中に、ひとりで住んでいました。
 かいじゅうには家族も、友だちもいません。ずっとひとりぼっちでした。
 山のふもとには、人間が住んでいる町があります。でも、かいじゅうが住んでいる山のおくまで来る人はめったにいません。たまに、道にまよって来る人がいても、かいじゅうのすがたをひと目みると、悲鳴を上げてにげていってしまうのです。
 魚みたいなうろこがびっしり生えていて、人間のおとなの二人分くらいはある、青い色をした大きな体。ワニみたいにとがって、きばがたくさん生えた大きな口。太くて長いしっぽ。鳥みたいなまんまるい目と羽。そして、まるでトナカイのような、大きな二本のツノ。
 かいじゅうは、住んでいるどうくつの近くにある、小さな湖に、自分のすがたをうつして見ても、どうして人間たちがにげていくのかわかりませんでした。そのすがたが、人間たちから見れば『おそろしい』のだということも。
 かいじゅうは、いつも、森にある木の実や、草などを食べています。でも、人間たちは、かいじゅうを見ると、「食われるぞ、にげろ!」とか、「助けてくれ!」と言いながらにげていきます。
 この前、ひさしぶりに人間たちがやってきた時にも、かいじゅうが木の実をごちそうしてあげようと取りにいっているあいだに、人間たちはいなくなっていました。

「ぼくは人間を食べたりなんかしないのに。ただ、友だちになりたいだけなのに……」

 かいじゅうの目から、なみだがひとつぶ、こぼれ落ちました。
 かいじゅうは、せなかの羽で、空をとぶこともできました。一度だけ、人間の住む町にとんでいってみたことがあります。
 でも、かいじゅうが町の空にあらわれたとたん、町中が大さわぎになりました。
 多くの人は家の中ににげこみ、またべつの人たちは「バケモノめ!」と口ぐちにさけびながら、かいじゅうに向かって石や、いろいろなものを投げつけてきました。
 気の弱いかいじゅうはこわくなって、急いで山へとにげ帰りました。今でもあの時のことを思い出すと、こわくてなきそうになります。
 その時、かわいらしい鳴き声が聞こえてきました。
 そちらのほうを見ると、二羽の小鳥が、かいじゅうの集めておいた木の実をついばんでいます。
 かいじゅうはうれしくなって、小鳥たちのほうへかけよりました。すると小鳥たちはびっくりして、短い悲鳴のような声を出すと、あわててとんでにげていってしまいました。
 かいじゅうは、とても悲しくなりました。森に住んでいる動物たちも、かいじゅうのすがたを見ると、いつも急いでにげていってしまうのです。
 かいじゅうは本当にひとりぼっちでした。今度はたくさんのなみだが、目からあふれました。

 そんなある日、かいじゅうがいつものようにひとりで木の実を集めていると、とつぜん何人もの人間がやってきました。それを見て、かいじゅうはうれしくなりました。でも、ふあんにもなりました。
 またこわがってにげられるかもしれませんし、もしかしたら反対に、いじめられるかもしれないからです。
 かいじゅうがどうしたらよいかわからずにいると、一番前にいた、あごひげを生やした人間が、にっこりとわらってこう言いました。

「こんにちは。きみと友だちになりたいんだ」

 かいじゅうは、はじめは聞きまちがいかと思いました。でも、人間はたしかに言ったのです。「きみと友だちになりたいんだ」と。
 かいじゅうはうれしさのあまり、なきそうになるのをがまんしながら、急いで人間たちをもてなそうと、木の実を持ったまま「ぼくの家においでよ」と、やっとそれだけを言うと、どうくつに向かって歩き出しました。
 バン。
 それが何の音なのか、わかる間もないまま、かいじゅうはどうっ、と大きな音を立てて地面にたおれました。あわてて起き上がろうとしましたが、体がしびれて動けません。そして、なんだかとてもねむくなって来ました。遠くから「やったぞ!」という声が聞こえたような気がしました。

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