「よし! できるじゃないか」

 調教師にほめられ、キンバルはえがおを見せました。ずっとできなかった玉乗りが、できるようになったのです。
 ふと目を横に向けると、リリィがこちらを見ていました。リリィはウィンクをし、キンバルもうなずきを返します。
 サーカスのみんなには、あいかわらず『かいじゅう』とか『お前』とよばれるけれど、キンバルは平気でした。リリィからもらったすてきな名前は、リリィとキンバルだけのひみつです。

 やがて、キンバルもサーカスのステージに立つようになり、きみょうなかいじゅうのする芸を一目見ようと、サーカスにはお客さんがたくさんくるようになりました。
 リリィは夜になると、よくキンバルのいるテントにこっそり来てくれて、上手に芸をしたキンバルのことをほめてくれました。
 キンバルは、だれにほめられるよりも、リリィにほめられることが一番うれしくて、とび上がって走り回りたいような気持ちになります。  そんなある日のことです。
 リリィが元気のない顔で、キンバルのテントへとやって来ました。オリのそばにすわりこむと、何も言わずにぼんやりとしています。

「リリィ、どうしたの?」

 キンバルがたずねると、リリィは顔をこちらへと向けました。そして、少しだけわらってみせます。

「わたしを養女にしたいっていう人たちが来たの」

 どういう意味かわからなかったので、キンバルが目をぱちぱちさせていると、リリィは少し考えてから、また言いました。

「わたしのことを、自分の子どもとして引き取りたいっていう人たちがきたの」

 リリィは、そのままつづけます。

「とってもやさしそうな、おじさんとおばさんよ。……でも、その人たちのところへ行ったら、サーカスはやめなきゃいけない」

 キンバルはようやく、それがリリィとのおわかれになると気づき、青ざめました。
 でも、うろたえるばかりで、上手く言葉が出てきません。

「わたしもね、ひとりぼっちはいやだから、ここにいるの」

 リリィの目から、なみだがひとつ、こぼれ落ちました。
 初めて会った夜、そのことを言いかけたのだと、キンバルにはわかりました。

「でも、わたしにも家族ができるわ。もう、ここにいなくても、ひとりぼっちじゃなくなる」

 そう言ってリリィは、えがおになりました。
 けれども、目からはなみだが流れつづけます。

「さようなら、キンバル」

 そうして、リリィは立ち上がると、急いでテントから出て行きました。
 キンバルは何も言えないまま、そのうしろすがたを見送りました。
 その夜、キンバルはまったくねむれずに、次の朝をむかえました。

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