「おい、かいじゅう! 出番だぞ!」

 調教師に言われ、キンバルはステージのそでに向かいます。今日は一度も、リリィのすがたを見ていません。
 もう、行ってしまったのだろうかと、そのことばかりが気になります。
 リリィがいるサーカスは、とても楽しいものでした。でも、リリィがいなくなってしまったら、もう会えなくなってしまったら、たくさんのお客さんに、はくしゅをもらっても、サーカスの人にほめられても、何の意味もないのです。

「キンバル!」

 その時、向こうのほうから声が聞こえました。
 まちがいありません。小さかったけれど、リリィの声です。

「助けてキンバル! 助けて!」

 今度は、はっきりと聞こえました。
 キンバルはまよわず、そちらへと走りました。

「おい! 待て! ――つかまえろ!」

 調教師が大きな声を上げ、サーカスの人たちが、よってたかってキンバルをつかまえようとします。
 けれども、キンバルの力はとても強く、つかまってくる人たちを、まとめてはねのけます。悲鳴が上がり、あたりはパニックになりました。
 やがて、いつもよりもずっと上等な服を着たリリィがいるのが見えました。座長さんと、見たことがない人たちといっしょです。

「リリィ!」

 キンバルは、大きな声でリリィの名前をよびました。その声を聞き、走ってくるキンバルのことを見つけると、リリィの顔がぱっと明るくなりました。そして、こちらへと手をのばします。
 いっしょにいた白いかみの男の人と女の人は悲鳴を上げてにげ、座長さんはキンバルをどなりながら止めようとしましたが、むだでした。キンバルはリリィの手をつかむと、せなかの羽をはばたかせ、空へとうかび上がります。
 おどろき、声を上げる人たちが、あっという間に小さくなっていきました。

「すごい! わたし、空をとんでるのね!」

 キンバルのうでにつかまりながら、リリィはうれしそうに声を上げます。
 夕日にてらされた町は赤く、流れる川の水がきらきらと、光をつかんでは、空へと投げ返しました。サーカスのテントが、どんどん、どんどんと遠ざかっていきます。
 二人を止められる人は、もうだれもいません。

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